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断食と人と馬の話

西村佳哲

10-02-27 朝起きて…

*上の写真は徳仁親王によるもの/ネットで見つけて

きわめて個人的な話だけど、16年前に、一週間の断食をしたことがある。一人で手前勝手にしたわけではなく、当時神楽坂のあるお店が時々開講していた講座に参加して、指導を受けながらの断食だった。

全体で五週間。正味の断食は一週間。毎週水曜日の夜に神楽坂へ行き、翌週へのガイダンスを受けながら歩みを進める。
最初の週は全体のオリエンテーションと、水分確保について。その週は断食期間に備えて、水を飲む習慣をつける。その翌週から減食に入り、毎日1/8づつ食べる量を減らす。そして断食の週になり、この間はお水と粉末カルシウムしか摂取しない。断食終了後は、二週間をかけて食事の量を戻す補食期間に入り、そしてプログラムは終わる。

断食そのものより、前後の減食や補食期間がとても楽しくて好きな話なのだけど、いま書きたいこととは違うので我慢。

16年前は僕がちょうど30才、勤めていた会社を辞めた直後だった。
自分のいろいろなものをリセットしたくて、身体ごとリセットしたい気持ちまで高まり、すでに講座を体験していた友人の話に興味を持って参加してみたのだった。

ちなみにその講座は「普通に働きながら断食できる」というのがミソで(多くの断食道場は宿泊型)、実際その断食の間はみんな普通に働いていて、僕も自転車に乗って打合せに出かけ、プールで泳いでもいた。
 

朝起きて、林檎を食べてMacintoshの前に座って、急に断食の話を書きたくなったのは、自分と身体の関係について心が動いたからだ。もう少し書きます。

この断食の数年後、今度はモンゴルへ行き、オルホン川の流域を一週間ほど、馬の背中にのって旅をするツアーに参加した。

遠い地平線に見えた人が一時間ほどかけてこちらまで歩いてくるような広大な世界で、こうして書いていると、遠い草原をずっと歌をうたいながら歩いてゆく少年と馬の群れの様子を、ぼんやり眺めていた時間のことなども思い出すのだけれど、この旅を通じて強く思ったことの一つは、人と馬の関係は、人間と身体の関係に似ているんじゃないかということだった。

馬は協調性の高い動物で、良好な関係を結ぶことができれば、こちらの言うことをかなりきいてくれる。手綱さばきや体重の具合、声のかけ方などで、思い通りの方向にじぶんを運んでくれる。

しかしたとえば川を渡るとか、急な崖を降りるような時は、どう歩みを進めるかは彼(馬)がじぶんで判断している。こちらが考えた方向へ進めようと手綱をさばいても、言うことをきかず、別の道筋で前へ進むことがしばしばあった。
目的地に到着して鞍から降りると、馬はそのあたりの草をムシャムシャ食べながら、のんびりと寛いでいる。
 

自分と身体は一つのようでいて、実は別の生き物なんじゃないかということ。

僕らは身体という馬に乗って、日々旅をつづけている。その馬はきわめて協調的で、旅をともにしてくれるけど、こちらの思い通りにばかり動くわけではない。彼には彼が感じている世界があって、時には歩みをとめたり、別の方向を気にしたりしている。

その馬を御して、力を最大限に引き出す技術も多々磨かれてはいるが、ある秩序を持つ別の生き物であるという一線を越えることはできない。機械ではないわけだし。

またその馬は、一人につき一頭しかいなくて、別の馬に乗り換えることもできない。

「やらなければならないし、しかもやりたいこと」が沢山あるのに、やろうとしない自分がいることが気になっていて、これはなんだろう…と眺めている。
夢を叶えるとか、望みを実現することを、その直前で回避することでなにかを遅延させる人間の心性について書かれた本を読んだことがあるが、その類のことなんだろうか。だとすると、こうして文章を書いている場合なの?という話になる。

一方、自分と馬の関係のことも思う。彼を信頼している(信頼って「信じて・頼る」って書くんですね)。そんなこんなで、急に書いてみたくなったのだった。

馬=身体であるという置き換えで書いてきたが、彼はどうもおもに、この身体の下の方にいる気がする。
いまは朝の10時半です。今日はどこまで行けるかな?
 

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