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西村佳哲。リビングワールド・代表。ときどき作文。

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くるみの木

NISH (Living World) 2007-03-05

先々週に奈良で行った、くるみの木のオーナー・石村由起子さんとのトークセッションが、すごく楽しかった。
ほんの一部分ですが、以下にお裾分けします。働き方とか仕事について、興味のある方はどうぞ。
 

由起子さんが、カフェと雑貨のお店・くるみの木をつくったのは、23年前。
今や、11:30のオープン前には沢山の人が並んで待つ人気店。約10年前にはふたつ目のお店を、約2年前には二部屋のゲストルームからなる、小さなホテルもオープン。カフェや雑貨が好きな女性達の間では、全国的に有名な巡礼地のひとつだと思う。

でも、オープンして2〜3年の間は、まったく光の見えないトンネルの中を、毎日泣きながら手探りで進んでいる。そんな状態だったそうだ。
 

石村由起子:少しでも光が見えれば、そこに向かうことが出来ます。でも、まったくなにも見えなかった。真っ暗闇で、自分のやろうとしていることは、奈良の人たちに望まれていないんだ。毎日、そんなふうに思っていました。

──光が見えた瞬間は?

石村:奈良ではない、遠くから来たお客さんが、もう一度来てくださった時ですね。
そういう方が、一人・二人と姿を現してくださっていることに気づいた時、ああこれでもいいんだ、これをいいと言ってくださる人もいるんだ。と、光が見えた気がしました。
 

23年前の奈良。カフェという概念はまだ世の中になくて、役所の許可も「喫茶・スナック」といった分類。お店に入ってきたお客さんに、ママと呼ばれたり、スポーツ新聞はないのかと言われたり。
今は地元の方々で賑わうお店も、スタートはそんな感じだったという。
 

──(会場からの質問)くるみの木を始めるとき、参考にされたお店は? 開店までの経緯は?

石村:参考になったお店はありません。23年前ですから、まったくの手探りでした。

それ以前の私は建設会社に勤めていました。主人も勤め人で共稼ぎです。ある頃、そろそろ子どもが欲しいと、会社を辞めたんです。会社を辞めれば、子どもが出来ると考えていたんですねえ…。
 

会社を辞めてしばらくしたある日、奈良の一条通りを車で走っていました。今のくるみの木は、元々はゴルフの練習場のレストハウスで、そこが営業をやめてからは別の使い方をされていました。その頃は、関電(関西電力)の作業小屋に使われていたようです。

建物の前の紫陽花(あじさい)がとてもキレイだったので、車を止めて、見せてもらっていました。
そうしたら、その作業小屋から事務の女性の方が出ていらした。
「きれいなので、見せていただいています」と話したら、「どうぞどうぞ。切って、すこしお持ちになりますか?」と、はさみを持ってきてくださった。

その女性と何気なく交わしていた会話の中で、「この建物可愛いですねえ」と言ったんです。
「えっ、こんな建物のどこが可愛いの?」
「いや、私むかし小学校の文集に、大きくなったらお茶とお料理を出す小さな店をひらきたいって書いていて。描き添えた絵に、この建物がかさなって見えて…。あのへんに窓があって煙突が出ていたら、ちょうどこんな感じなんです」。

そんな話を交わしていたら、その彼女が「いいわね。あなた、それやりなさいよ!」と言い始めた。
「私たち、もうすぐこの建物を出ていくの。今から大家さんのところへ行きましょう」って言うんです。
私は頭がぜんぜんついていけないっていうか、「えっー!」という感じで、グルグル回っていて。でもグルグルグルグルしたまま、その足で、大家さんのところへ行ってしまったんですね。
 

大家さんのところに着いて、彼女は俄然のり気で「この人、こんなこと考えているの。すごくいいと思う。貸してあげてくださいよ」と熱心に話してくださった。
でも大家さんは「いや、貸さない」と即答でした。
「貸すとなかなか出ていってくれないから。あんた達が出て行くのを最後に、もう貸さないことにしたいと思っているんだ」と。

私の中には昔から、なにか反対されたり困難さに出会うと、パチンと入るスイッチが、どこかにあるんですね。
それまでは遠慮がちにしていたんですが、そのスイッチが入ってしまって。
「こんなお店をやりたいんです。あそこはイメージどおりなんです。ぜひ貸してください!」と、とうとうと店の説明をはじめてしまった。どんな店にしたいか。

そうしたら「わかった。そこまで言うなら貸しましょう」という返事が戻ってきてしまって。逆に『うわー、どうしよう!!』という状況になってしまったんです。

「主人も交えて話す必要があるので、夜にまた来ます」と言って大家さんのところを出て、主人に電話しました。まだ勤務時間だし、動揺させてしまうし、怒られるに決まっている。なので、「会社が終わってから、会って欲しい人がいるんです」と伝えました。

会社帰りの主人と会って、かくかくしかじかと話したら、案の定おこられました。そんなこと出来るわけないだろう。先立つものもないし。一体どうするんだ!という感じで。
出来るわけないというのは、私たちの親戚には商売をしている人が一人もいなくて、公務員とか堅気の仕事の家ばかりでした。だから「商売」にはいいイメージがありません。倒産とか、夜逃げとか、借金とか、そういうイメージが先立ってしまう。

でも、断るにしてもお会いしないわけにはいかないから…ということで、ともかく二人で、もう一度大家さんのところに向かったんですね。
 

大家さんのところで、さっきの話はなかったことにしてください、って言うはずだった…。

んですけど、気がついたら、今度は主人が大家さんを説得しにかかっていて(この辺りのくだり、聞いていたのですがあまりに面白くて飛んでいます/西村)。
「彼女がこんなにやりたがっているんです。どうか貸してあげてください」「私たちを見てください!真面目な人間です」とか力説していて(笑)。結局貸していただけることになって、お店がはじまったんです。……
 

他人が発見したり、気づいてくれる「自分」がある。
あと自分のこれまでを振り返ってみても、重要なことの大半は、偶然おこっていると思う。(西村佳哲)
 

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