雑誌「商店建築」2月号
対談(仲 隆介×西村佳哲

なんのためのオフィス・デザイン?

(特集:コマーシャルオフィス&カウンタービジネス より)

●なんのためのオフィス・デザイン?

編集部:インテリア・デザイナーが手がけた、今までになかったようなオフィスの設計事例が増えている。ここ2〜3年は、年に1回ほどオフィス特集を組んでいる状況です。

西村:なぜ増えているのか。「会社にとってオフィスはなんのための空間か」という位置づけの変化が、その背景にありますよね。

仲:たぶんそうですね。その結果、企業がオフィスに求めるものが変わりつつある。

西村:これまでオフィスはまったくデザインされていなかった。そして近年急速にされ始めている、という話ではない。たとえば重役室やプレゼンテーション・ルーム、受付やレセプションにはデザイナーも関わってきた。変わってきたのは、そこで求められるデザインの「質」ではないでしょうか?

仲:そうですね。微妙に違ってきているのは、そうした空間に「働く」という行為がにじみ出してきていること。それがデザインの一つの要素になってきている点が、たとえば従来のレセプションのデザインとも異なるのだと思います。また同時に、いわゆる執務空間に求められるデザインも、変わりはじめています。
海外の事例を少し見てみましょうか。これは、ロサンジェルスのシャイアットデイという広告代理店です。執務スペースに連続して、バスケットコートなどのスポーツ施設が組み込まれていたり、セントラルパークと呼ばれる公園のような機能が入ってきています。飲食機能を絡めるなど、人々が集う空間としてオフィスを活性化させようとする傾向がある。

西村:ヨーロッパの公園や広場にも、時々こうした巨大なチェスボードがありますよね。街中にある要素が、オフィスデザインに取り込まれているんだな。

仲:チェスボードの写真は、ノルテル社のオフィスです。

西村:「働く」という要素がレセプションのような空間にも求められるようになってきた理由は、オフィスに執務機能だけでなく、コミュニケーション装置としての機能が強く求められるようになってきたということ。机に座って働くだけでなくて、コミュニケーションを伴う働きが重要視されてきた、ということですよね。

仲:企業活動の中に、いろいろな形のコラボレーションや働き方が増えていて、それを支援する都市機能がオフィスに入り始めています。街角のカフェのような空間がつくられたりね。これらを、“オフィスの都市化”と呼んでみましょうか。
また一方に、“都市のオフィス化”という動きもあります。サービスオフィスやレンタルオフィスの類は日本でも増えてきたし、世界的にも増えています。リージャスがその代表格ですね。中にはブレインストーミングなど、特殊な会議のための空間レンタルを行っている事例もある。

西村:キンコーズもその一例だし、ヤフーカフェやユナイテッド航空のレッドカーペットクラブなどもそうですね。これまでオフィス内部にあった機能が、街の外につくり出され、共有化されている。

仲:都市全体が働く場所、Fun Work Cityになる。住宅のSOHO化などの動きも含み、「働く場」の領域が変わり始めていると思います。
話をプレゼンテーション・ルームやレセプションに戻すと、これまでそれらは、会社と都市の境界面でした。そこには表向きの顔が求められた。看板やショーケースであると同時に、壁でもあったわけです。が、それでは済まなくなってきた。ただの壁にしておくのはもったいないという意識が、共有されはじめてきた。

西村:飾り立てる空間であったり、歓待の場であるだけでなく、仕事の場であり、協働の場であることが求められている。

仲:そうですね。

西村:その背景には多くの企業が、事業の再編成に取り組んでいることがあると思います。
以前の日本では、何を作ればいいかは比較的明確だった。象徴的に言えば、車と家電をつくっていれば事業になったわけです。つくるべきものが明確なので、そのための労働力も明確だった。基本的に社内だけ、あるいは事業部門だけでビジネスが出来た。
ところが、もう昔のようには売れない。なにをつくればいいのかが、わかならい。そこで、あたらしい「WHAT」を探している。それを見つけ出し育てるためには、あたらしい組み合わせが必要です。部門間の壁に隔てられた社内の人材が、あらたに交わり合う必要があるし、社外のリソースも欠かせない。そして、そのコミュニケーションを支える空間が必要になる。
これまで境目でしかなかったレセプションのような領域に、より業務上のコミュニケーションを支える機能が求められるのは、自然な成り行きだと思います。

仲:社会とのインターフェイスをどうデザインするかは、企業にとってすごく重要なことですね。

西村:社内対社内のインターフェイス・デザインも含んで。

仲:ええ、そうです。海外企業のオフィスを見ていると、それを強く感じます。国内でも、きっとそこが大事になっていく。
オフィスビルの設計には、3.2Eとか3.6Eといった平面モデュールがあります。モデュールにあわせておけば、一般的なレイアウトには問題なく対応できる。見方を変えると、モデュールにあわせてレイアウトを決めざるを得ない。もしくはデザインしなくても、ある程度機械的に決まってしまう。極端に言うとこれまでのオフィスデザインは、ワーカーの顔が見えないうちにデザインされた、ただの箱のようなビルに、オフィス家具メーカーが机や椅子を並べただけと言えなくもない。使う人たちをきちんと理解した上で、オフィス空間全体がデザインされることは、ほとんどありませんでした。経済効率にプラスして、部門間のコミュニケーション頻度によるゾーニングを考える程度。その範疇を出ていないものが大半です。家具以外についても、壁の色を少し変えてみたり、カーペットを選ぶといった程度のことが、サービスとしてやられていたにすぎない。

でもそうではなく、社員の働き方や雇用形態から、オフィス・デザインやレイアウトを考え直したい企業が増えている。「そこでなにを生み出すか」を考え・支える、トータルなデザインが求められるようになってきた。もちろん、それが家具メーカーに出来ないとは思いません。が、企業側はあたらしい相談相手を求めている。デザイナーが仕事を頼まれる機会も、だからこそ増えているのではないでしょうか。その期待に応える必要がありますよ。


●オフィス空間の“公・共・私”

西村:仲さんがお話になった、“都市のオフィス化・オフィスの都市化”。その端境にあたる空間づくりは、別の言葉で言うと、企業の「縁側」をつくるようなことだと思うんです。

仲:西村さんは、よくそうおっしゃいますね。

西村:たとえば、ホテルにはラウンジという空間があります。宿泊客が滞在する客室階には、セキュリティが求められる。しかしホテルである以上、コミュニケーションの機能は欠かせない。客同士の、あるいは外から宿泊客を訪ねてくる人との関わり合いを支える空間として、ロビーの一角に、場合によっては非常に大きなラウンジをつくりますよね。あれに該当する空間が、これからの企業活動には欠かせないと思う。

仲:いま、西村さんとIDEEさんと僕が一緒に関わっている関西電力の新社屋ビル(2004年12月竣工予定)の低層階は、まさにそうした空間ですね。

西村:日本人がつかう「公共」という言葉は、海外の都市においては、公(Public)と共(Common)の二つに分けられています。共とは、私の領域であると同時に公の領域でもある。たとえば、都市公園やカフェがその一例です。欧米の市民社会には、国や行政だけのものでも私個人だけのものでもない、「私たち」の空間が無数にあります。その自治の方法やデザイン手法もよく練り上げられている。この部分は、明治以降の日本社会の弱点ですね。

仲:日本をよく知っているアメリカの友人が、アメリカの公園は皆がやりたいことをする場所で、日本の公園は皆がやりたいことを我慢する場所だと言っていたことを思い出しました。アメリカ人は「共」の領域では我慢しないというか、もちろん酒は駄目などのルールはありますよ、でも日本よりはるかにやりたいことができて、ルールがやわらかい。しかし日本では、大概のことはやってはいけない。人に迷惑がかかるとか世間体を大事にするとか、日本的な発想があるんだろうけど、「公・共」を一緒くたにしていることで「共」のあり方が育まれていないという整理は、分かりやすいなと思いました。

西村:話が少しオフィスからそれますが、以前サンフランシスコの街並みを眺めていて、気付いたことがあります。道路にそって、住宅が軒を並べている。車道と家の間には、コンクリートの歩道があって、そこに街路樹が植わっています。その樹種が、もうてんでバラバラで、かつそれぞれの家の植栽と関連していたんですね。どう見ても行政ではなく、住民が通りの街路樹を植えている。
調べてみたら、土地の所有形式が日本と大きく違った。歩道までではなく、車道との境界線までを個人が敷地として持っていて、街路樹を含む歩道部分は、本来プライベートな空間をそれぞれが街並みに提供し合っている。そういう土地の所有・共有がなされていたんです。

仲:本当ですか。気持ちとしてだけでなく?

西村:アメリカの都市の大半が、同じ形式をとっているようです。こんな具合に、社会の至る所に「共」の領域と、それを成立させるデザイン手法がある。第三空間に対して育まれているこうしたセンスが、オフィス・デザインにも反映されているように思います。

仲:縁側に象徴される第三空間の議論は、建築の世界ではこれまで幾度も交わされてきました。が、オフィスがその対象として語られることはあまりなかったと思います。なので、面白いアイデアを出してほしいと本当に思う。

西村:昔の日本家屋の縁側が、柿や大根を干したり、人々が集い合う営みの場だったように、たとえば企業のレセプションも、飾り立てられたよそよそしい場所であるより、生活の場であり仕事場であることが求められる。

仲:そこに可能性があると思います。うまくいけば、東京もすごくよい都市に生まれ変わるかもしれない。まさに今が変化のしどころで、チャンスでもある。余ったオフィス床をどのように使うか、都市レベルで問われているわけです。
一部では賃料が下がり、空間を広く借りるケースも生まれてくる。オフィス床の選択肢が増えることで、多くの企業が動いています。この過程にいろいろな人材が飛び込んで、新しいオフィスデザインのあり方が模索される可能性が高い。とても面白い状況です。


●つくり方からつくり直す
西村:働く場をデザインするということは、ワークスタイルをデザインすること。格好良くしておけばいい、というものではないということ。このような意見に共感してくれるデザイナーは、少なくないと思います。でも、そのために何をどう学べばいいのかがわからない人が、多いのではないかな。

仲:確かに難しいですよね。病院や学校の関連資料はたくさんあって、やる気さえあれば学びやすい。ただ、オフィスのアクティビティは企業ごとに異なるし、そのための考え方を整理した書物はあまりないんですよね。

西村:そもそもオフィスは何のための空間だったろう、ということを考える必要もありますよね。「会社って何だっけ?」という問い直しまで含んで。
いまオフィスデザインが面白くなっているのは、企業が自らのあり方を見直しているからです。であれば、そこを一緒に考える力がデザイナーにも欠かせない。岩井克人氏が、『会社はこれからどうなるのか』(平凡社)という本を書いていますが、このような「そもそも論」を真面目に話し合う時期なんだと思います。

仲:もともと参考図書がない上に、土台となる社会や企業の有り様まで変化しているわけですよね。現時点で、そこまでフォローできている設計者は、オフィスについてはあまりいないと思います。

西村:今から10年ほど前に、富士ゼロックス社は「スペース」「ツール」「スタイル」という三つを共に考えるところに新しいオフィス環境のデザインがある、と語っていましたね。
「スペース」は空間。主にデザイナーや建築家が手がけてきた。「ツール」は道具。オフィス文具から情報機器まで、メーカーやシステム・コンサルタントが関わる。そして「スタイル」は働き方や雇用形態。リクルーティングから企業戦略策定まで、経営コンサルタントなどが関わってきた領域。この三つを、互いに重なり合う仕事として捉えることが重要だと、そう述べていました。

仲:その整理は僕も賛成です。三つのバランスを全体的に考えられるようであってほしい。オフィスに限らない話だと思いますが、特にオフィスはいま、そういう問題に直面しています。

西村:「ツール」の一種には、たとえば情報システムがあります。その担い手たちがイニシアティブを取って、オフィス・デザインを進める。あるいは、ビジネス・コンサルタントたちが、「スタイル」の側からデザイン・プランニングのイニシアティブを取る。そんなケースもありますよね。

仲:今、オフィスの内部で行われている業務を最も熟知している組織の一つに、情報システム会社があります。たとえばIBMのような企業ですが、彼らは90年代から、独立した組織として建築設計の事務所を持っているんですよ。
IBMは、各社の事業やワークスタイルに合わせたシステム提案をしている。グループウエアを含めたトータルなデザインの延長として、空間のデザインも手がけ始めているわけです。まだそれほど多くの事例を積んでいませんが、設計事務所や建築家は、何かしら考えないと太刀打ちできなくなると思います。

西村:カバーすべき範囲が広くて、気が遠くなりますね。

仲:デザイナーの人たちにまず試みて欲しいのは、この大仕事を一人でやろうとしないこと。ツールのことがわかっている人、スタイルのことがわかっている人と、コラボレートしてつくり上げていくことをぜひ経験して欲しいと思います。
一度経験すれば、いろいろなことが見えてくるはず。建築家は、構造、設備、意匠のすべてをコントロールすることが自分の役割であると思っていたし、実際そうでした。だから、つい一人で頑張ってしまいがちですが、そこでイーブンな協働を試してほしい。役割上の話ではなく、要素、プロフェッショナリティとして等価であると考えてみてほしいんです。
役割上は、誰かがリーダーになる必要があります。たとえば、空間分野の人がリーダーシップを取ったとする。その時、空間主体で考えてしまっては駄目だということです。

西村:こうした話と並行して、企業側の担当者の力量をめぐる問題も大きくないですか。

仲:そうですね。

西村:飲食施設のデザインには、店を開きたいオーナー、ホシザキなどの厨房機器メーカー、そしてインテリアデザイナーといった「スタイル」「ツール」「スペース」の組み合わせがあります。
この時、何よりも大事なのは、どんな店にしたいかというビジョンと強力な主体性を持っているオーナーが存在すること。しかしオフィス設計においては、そこを総務部門の担当者が担っている。あるいは管財部門とか。多くの場合、彼らはそれほどビジョナリーではないし、企業オーナーのような主体性も権限も持ち得ていない。ある意味、仕方のないことです。そして、企業側の彼らにビジョンがないから、建築家やデザイナーが「俺がビジョンを持たなければ」と力んでしまう。そんな構造はないかな。
仲:あるかもしれませんね。オフィスデザイン以前に、ワークデザインを考えること。その重要性を、企業はまだ十分に理解していないんじゃないか。ワークデザイナーと呼ばれるような専門職が、企業に中にいるべきだと思うんです。

西村:社内の人材でそれが機能するのかどうかは、なんとも言えない。考えてしまいます。あるパラダイムの真っ直中にいる人は、そのパラダイムを意識化するのが難しい。外側から客観視することが出来ないことが多い。確かに、自分の身体を自分で持ち上げるようなことでもありますから。
企業スタッフとの協働が欠かせないのは事実なのだけど、彼らとどんなパートナーシップが組めるのか。つくり方のレベルからつくり直さないと、先へは進めないんじゃないかな。

仲:サンマイクロの社内にあるファシリティ・マネージメント部門は、自分たちのことを「ワーク・エフェクティブネス・グループ」と呼んでいるんです。

西村:名前を変えるって、大事ですね。

仲:ええ。彼らはいわゆるファシリティ管理だけでなく、ワーカーの就労形態をも含む、全体的な仕事の環境づくりに取り組んでいます。生産性の上がる働き方は何だろうという分析から始めて、具体的な提案を企業トップに提示している。そして、それが理解される仕組みや、奨励する企業トップと、社内の風通しの良さがあるようです。
そんな企業との仕事を体験できたら、建築家やデザイナーの意識も変わるだろうし、自分だけが頑張らなくてもいいという気持ちにもなれると思いますね。

西村:アメリカでも、そこまでの事例はまれだと思います。が、判断力と権限をもった企業内ワーカーとの協働を試みること。それが難しいにしても、空間以外のプロフェッショナルとチームを組んで取り組むこと。
そのためのネットワークづくりや、チームワーキングの模索が、これからオフィス・デザインの大きな仕事になるのでしょうね。◆


仲 隆介
1957年生まれ。京都工芸繊維大学 デザイン経営工学科・助教授。東京理科大学院卒業。PALインターナショナル一級建築士事務所、東京理科大学建築学科助手、MIT客員研究員(フルブライター)、宮城大学事業構想学部講師を経て現在に至る。アメリカ留学中は情報化の建築都市への影響、欧米の新しいオフィスの動き等を調査。日本建築学会、日本ファシリティマネジメント協会などで、建築の情報化、FM、オフィス等に関する活動を続ける。

西村佳哲
1964年生まれ。プランニング・ディレクター。武蔵野美術大学卒。建設会社の設計部門を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物など、各種デザインプロジェクトの企画・制作を重ねる。多摩美術大学などいくつかの教育機関で、デザインプランニングの講義やワークショップを担当。リビングワールド代表。全国教育系ワークショップフォーラム実行委員長(2002〜)。自著に「自分の仕事をつくる」(晶文社)など。働き方研究家。


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