遠野クイーンズメドウ|ワークインレジデンス・プログラムの始まり

岩手県・遠野の、森と里のあいだに「クイーンズメドウ・カントリーハウス」という場所があります(以下QMCHと略)。
この数年間、親しい友人を誘ってなんども通ってきた、生産と滞在の心地よい実験地で、栗毛色の馬がいます。

そのQMCHに、短期間(1〜3ヶ月ほど)滞在し、〝馬 × 農業 × ランドスケープ〟の掛け算でつくるこれからの仕事と暮らしの実験的な実践に、自分もかかわってみる。その環境の中で働き、語り合い、休みながら、世界と自分のつながりを感じる。
食べ物とベッドはQMCHが。滞在者は、日々の作業の手伝いと好奇心を持ち寄って。まだ構想段階にあるそんなプログラムの始まりとして、東京で半日の小さなフォーラムを開くことになりました。
この滞在形式をどう呼べばいいかな。インターンシップ? ボランティア・スタッフ? うーん。〝ワークインレジデンス・プログラム〟という言葉をあててみたらしっくりきた(*)。
働きながら滞在する。身体も心もよく働かせてすごす。仕事と関係を互いに育む。
12/23(土)の午後、QMCHのメンバーと4名のゲスト、プラス集まった方々を交えて、この構想をみんなで練ってみようと思います。気になる人。「滞在したいかも」と思った人。ひとまず曙橋にお集まりください。
*「ワークインレジデンス」は11年前、徳島県神山町のNPOグリーンバレーの大南信也さんと西村がつくったコンセプト。アーティストインレジデンス・プログラムを重ねている町に、アーティストとは限らないさまざまな人が訪れ・滞在し、一緒に働いてなにかをつくり出す活動を称する言葉です。神山以外の場所で使うのは初めてですが、他に呼びようがなくて。(西村)

 
遠野 クイーンズメドウ・カントリーハウス|ワークインレジデンス プログラムの始まり
みんなで構想する、半日のミニフォーラム

 ファシリテーター: 西村佳哲
 日時 : 2018年12月23日(日)
      13:00〜19:00/開場 12:30
       *お茶とお菓子付
       *19時から美味しいご飯会あり[別途申込制]
 場所 : 合羽坂テラス #2(東京・曙橋)
 参加費: 1,500円
      *ごはん会は+1,500円(by 松中食堂)
 定員 : 約30名
 お問い合わせ: 1223qmch@livingworld.net
 

 
プログラム(予定):
 12:30 開場
 13:00 開始、オリエンテーション
 13:15〜14:45 ランドスケープの話:田瀬理夫 × 石川 初
 15:00〜16:30 馬の話:徳吉英一郎 × 遠藤 綾
 16:45〜18:15 農業の話:田瀬理夫 × 真田純子 × 真鍋太一
 18:15〜19:00 ワークインレジデンス・プログラムの構想
 〈長めのティーブレイク〉
  └ 会場のあちこちでいろんなお話
 19:00〜 みんなで美味しい晩ごはん[別途申込制]
 *部分参加は原則としてお断りします(晩ごはんパートを除く)

 
◎お申込み方法: 以下のページでお申込みください
 →お申込用ページ|Peatix
 

 
西村の思うところ
最初にまとめると、「馬 × 農業 × ランドスケープの掛け算で試みる、これからの仕事と暮らしづくり」に関心があり、かつ遠野・クイーンズメドウでのワークインレジデンスに興味があって、QMCHメンバーやこの日のゲストの話を聞いてみたい!人がいたら、参加して欲しいなと思います。
ここからはゲスト紹介も兼ねて。僕は約10年前にランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんと会い、彼の言葉を『ひとの居場所をつくる』(2013|筑摩書房)という一冊の本にまとめました。クイーンズメドウ・カントリーハウス(QMCH)は、その主要な舞台です。

それまで少しづつ考えていたことや、漠然と感じてきたことが、ある人との出会いで一気に輪郭を強め、具体的なイメージや言葉になる。僕は人運がよく、そんな出会いに恵まれていますが、中でも田瀬さんの存在はギフトであり、いまだに大きな問いです。
彼は20年ほど前、仲間たちと遠野の土地を得てQMCHを構想。そのランドスケープ・デザインを描きました。
意匠性の主張はない。いろいろなことが自然と可能になっていて、居心地がいい。そんなデザインが施されている場所です。原寸で書かれた教科書のようだな、とよく思う。
この日はその田瀬さんの話し相手として、同じくランドスケープデザイナーであり慶應大・SFCでも教えている、石川初さんが来てくれることになった。(近著『思考としてのランドスケープ』2018|LIXIL出版)

彼とはこの数年、何度か一緒にQMCHに滞在しました。その目に見えた遠野のこと。またランドスケープと農業の関係について、2人の話をたくさん聞いてみたいと思います。
石川さんが通った高校は、中山間地にある寄宿制の農業校で、当時は農業の道に進むつもりだったらしい。景観に人の営みを見る彼の視点は、そんな出自にも由来しているんでしょう。
『ひとの居場所をつくる』の準備を始めた頃、東日本大震災が起こりました。2ヶ月後、僕は初めてQMCHを訪ねます。田瀬さんは不在。木立を抜けるとパドックがあって、2頭の馬がジッとこっちを見ています。すぐに近寄ってきた。

いまクイーンズメドウには6頭の馬がいます。彼らは競走馬ではないし、農耕馬でもない。乗用でもない。使役動物でないQMCHの馬のあり方を、あの場所を訪れた少なからぬ人が不思議に感じていると思う。
この話は当日、徳吉英一郎さんに聞いてみましょう。雄弁です。彼が遠野で試みてきた、馬とひとの新しい関係づくりは独特で、考えさせられる。人と人のコミュニケーションのあり方まで。(徳吉さんのインタビューは『いま、地方で生きるということ』2011|ミシマ社 に収録されています)

彼の語らいの相手として、山形県・鶴岡から遠藤綾さんが来てくれます。彼女はSpiber株式会社という、タンパク質から新素材をつくるバイオスタートアップで働きながら、スタッフの子や地域の子を預かる「やまのこ保育園」をつくっている人。
その保育園長としていま、子どもたちの傍らに馬がいる時間と空間を、つくり出そうとしている。

使役動物ではない馬とひとの関係。馬糞による良質な堆肥でする有機農業という話だけでもなく、ただ馬と人が一緒に生きていることから何が生まれるのか。この日の話が僕も楽しみです。
最後のパートでもう一度田瀬さんに、今度はランドスケープでなく農業の話をしてもらおうと思います。彼がQMCHで構想し、この十数年の中で模索してきた農の話を。
対話の相手は二人。一人は東工大の准教授で、景観工学を教える真田純子さん。「石積み学校」を始めた人物でもあります。

彼女は近年、段畑つながりでイタリアの中山間地によく足を運んでいる。「国際段畑フォーラム」とか(あるんですね)。彼女から聞く「ヨーロッパの環境保全型農業」の話が僕は好きなのだけど、ここ1〜2年、聞く度に内容が更新され、強度も増しています。
一言でいうと日本の農業政策はヨーロッパ(EU)に20〜30年遅れをとっている、という理解になるのだけど、ここはEUではないので「イタリアでは」とか言っていても始まらない。始まらないけど、自分の現在地点がわからなければ旅に出ることもできない。面白いですよ。
もう一人は真鍋太一さん。彼はノマディック・キッチンで地域 × 料理人のプロジェクトを手がけた後、4年前徳島の神山町に移住。出会った仲間たちと「フードハブ・プロジェクト」という、新しい取り組みを始めました。

フードハブは今年のグッドデザイン賞でベスト100に選ばれた(追加情報:金賞も受賞)。彼はフードハブで、農業生産者と「料理人」の掛け算で面白いドライブ感をつくり出しています。追って農泊系の取り組みも始める様子。新鮮な感覚を形にしてゆくことでしょう。
その彼や真田さんが、これからのQMCHの農業にどんな課題や可能性を見るか。率直に語り合ってみたい。
 
このフォーラムはQMCHと共同で、ひとまず今回は僕の企画・主催でやらせてもらうことにしました。
『ひとの居場所をつくる』を、この場所に必要な人との出会いが生まれるといいなとも思いつつ書いたのですが、それから5年経って、いまクイーンズメドゥ側のタイミングが来ている感じがして。
心に動くものがあれば、どうぞお越しください。
2018年10月25日・西村佳哲

by 2018年10月21日