風灯2001・制作日誌

00/初夏
ある仕事で、風を視覚化してみようと考える。豆電球で。でも回路設計がわからない。So-netの林さんに相談。旧学友の下村さんを紹介していただく。
約2週間後、窓辺に風が吹くと机上の豆電球が明滅する小さな仕掛けが完成。自宅の窓をあけて喜ぶ、LWの二人。(同じ頃「月食ポストカード」を制作中)

01/04/18
サウンドバムのロケハンで出かけた沖縄・伊平屋島からの戻りの機内で、7月にLiving Worldの展覧会をやりたい!と強く思い立つ。

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機内スケッチ

01/05/25
ASYL designの佐藤直樹さんが、広い事務所に引越し。夕焼けがガンガン見えて、かつ風通しのいい一角を、Living Worldで借りることに。
下村さん来る。風灯プロジェクト、ささやかにキックオフ。

01/06/08
下村さんのプロトタイプ第一号、早くも完成。囲んでミーティング。下村さんは千葉大工学部デザイン工学科・人間生活工学研究室で働く助手さん。おそらく、学生さん達の超人気者。桑沢デザイン研究所でも週に一度、人間工学を教えている。

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福田さん(左)と下村さん/部屋が暗いのは点灯実験中につき

この日から、ソニー・クリエイティブセンター(当時)で働く福田さんもプロジェクトに合流。死ぬ直前まで周囲に将来を期待させるだろう人。と書くと、期待だけで生涯を終えかねないような言い方だけど、そうではなく、栄養満点で遠くまで歩いていきそうな人物という意味。(彼自身のサイトmafmafを参照)

下村さんはエンジニアリングを軸足に、福田さんはデザインを軸足に、LWのゲストメンバーという立場で一緒に風灯をつくる。でも、エンジニアリングとデザインという二つは、本来分離できないひとつの仕事なんだよね。

01/06/09
接点に磁力スイッチを使うアイデアを下村さんが考案。耐候性が高い上に、針金加工が減るので工期も短縮。素晴らしい!(この案は展示品では不採用)

友人・知人数名にLiving Worldに集まってもらい、ブレスト開催。お茶・お菓子付き。ブレストの目的はいいアイデアを沢山出すことではなくて、頭で考えられる限りの失敗を先取りしておくこと。いいブレストを経過すると、「こういうアイデアは出やすいけど今回は関係ない」とか、そういう整理がつく。

01/06/23
風灯づくりを進めるにつれ、日本の「風鈴」がよ縲怩ュ出来ていることに感じ入る4人。特に南部鉄風鈴はいいなあ。ヘッドの重さといい、短冊+糸+金物という受風部の柔軟さといい。増幅方法が実に巧妙で、ダイナミックレンジも広い広い。

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パラフィンに赤チョークを混ぜた別のプロトタイプ by 福田

会場候補カフェのひとつ、青山のCaffe@IDEEで、食事を摂りながらミーティング。ヒマラヤ茸のフライ、かなり美味くブーム化。プロトタイプをいじっているうちに、光センサーをつかった他の遊具のアイデアが出るが、これは先の楽しみに。

01/06/25
今週のプロトタイプは、釣り用品のスティック電池を石膏のヘッドに差すタイプ。福田さんは自宅で、小さなLEDの光を大きく拡散させる方法について、毎週末検討を重ねている。たとえば石膏という素材。透過性は低いけど、LEDより一回り大きい程度のサイズだと、すごくきれいだ。

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石膏版プロトタイプ by 福田

風灯は単体としてだけでなく、群れで点いている時に魅力的で、購入する人には、展覧会の風景の記憶が手元にひとかけら届くような、そんなニュアンスが大切だと思う。なので、会場となるカフェの決定が、デザインにも大きく関与しかねないのだけど、まだ決まっていない。暗がりがあって、風通しのよいカフェはどこだろう。
都内を夜中、自転車で走り回るLWの二人。お寺の境内の暗がりはかなり魅力的。でも、人来ないからなー。

01/07/01
この頃は、風灯制作の最初のピーク期。毎週会ってミーティングをするたびに、福田・下村両名から新しいプロトタイプが出てくる出てくる。そして全員で一緒に絵を描いて、その辺にあるものでまたプロトタイプして、….の繰り返し。

基盤や回路を見せるデザインで一度方向を固めようと腹をくくるが….、どうもピンとこない。頭部をロウで固める案を再検討。吊るすより、テーブルタイプの置き型も良いかも….、など揺れる揺れる。
秋葉原へパーツ購入に。電池にも実はいろいろあることを知る。すごいー。
www.protom.org/battery

01/07/06
関西出張の帰りに京都で一泊。五条の鴨川沿いにあるefishというカフェが、メトロというクラブでイベントを開催している。efishは、ぜひ風灯の展示をしてみたい場所。GRVの伊藤さん・近藤さんやアフターヌーンショーの鞍田さん、京都在住の建築家・門脇さんと楽屋で談笑。翌日夕方、efishのオーナーでありプロダクト・デザイナーの西堀さんとカフェでミーティング。少々緊張。風灯のプロトタイプを手に、これがたくさん吊してある空間で風を楽しんでみたいと説明。即、OKをもらう。京都会場決定!
「窓をいちばん開ける季節は10月中旬ですね。その前後は冷暖房かけてます。夏は虫も入ってしまうし」と西堀さん。開催時期を10月にあわせる。:-)

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01/07/09
下村さんから届くメールの内容が、ちゃんと理解できない西村。
「ボタン電池6V電源でLEDが暗いようでしたら、LEDに直列でつながっている電流制限抵抗を47Ωなどに変えてみてください。FETはμAの電流でもスイッチングできますので、LEDを直接(20mA)スイッチするのと比べて、ワイヤ接点の接触不良は相当低減するはずです。例えばゲート端子を指で触るだけでスイッチ動作します。副次効果でよかったよかった、です。」
うーん、なんかよくわからないけど、ヨイみたい。

01/08/02
京都は決まったけど、東京のカフェがなかなか決まらない。
制作作業もしばし中休み。 西村はサウンドバムへ、下村さんは帰省、福田さんは奥さんと旅へ、藤本は世界を旅するうさぎ・Felixの制作と、愛猫Tabbyの世話など。

01/08/18
東京の会場、Caffe@IDEEにココロを決める! 西村は昨年、このカフェの本をIDEEと一緒に書いた(make your caffe)。相談しやすいからここに決めたわけではなく、風通しや営業時間(風灯の場合、夜の営業時間が重要)そしてお客さんの層などを含む総合判断。
オーナーの黒崎さんに、プロトタイプを見てもらいながら説明。仕事で何度もお会いしている間柄ながら、プロダクトのプレゼンは初めてで、とても緊張。

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試作版の試作を吊してみる/手前は計量カップで型取りしたもの

カフェ下見の帰りがけ、IDEE一階の植え込みにしばらく吊してみる。いい感じ。通りがかりの人の、何気ない反応もいい感じだ。

01/08/31
土砂降りの雨の中、神田の竹尾見本帖(紙問屋さん)へ。IDEE・土橋さんの紹介で、磯さんという方に会いに。彼は10月の東京デザイナーズウィーク期間中に、紙を使用した照明器具などの展示を検討している。
オーストラリアのデザイナーによる展示とあわせて、風灯も展示していただくことに。受風部用の紙の提供についても、相談にのってくださる。ありがたい。

01/09/04
鹿島建設・秋葉さんの紹介で、知財管理部の櫻井氏に会う。テーマは特許申請。いろいろと話を聞く中、ささやかな権利を守ろうと努力することに、あまり意味がないことがはっきりする。
今回の風灯には、基礎技術の開発はない。技術特許としては対象外。実用新案は無審査なのでそもそも意味がない。すると残るのは、デザイン登録か商標登録。しかし仮に頑張って審査を通ったとしても、それでいったい何を守りたいのか。

法律の力を借りて、自分はなにを抑止したいのかっていうと、要するに「風が吹くと灯る照明器具」というアイデアを守りたい。でもそれを実現するための方法は、むろん自分たちの辿っている道筋以外にも、いくらでもある。
結論はこう。アイデアを守る最良の方法は、とにかく早くつくってしてしまうこと。しかもかなりいいレベルで。アイデアを法律で守りたいなんていう気持ちが強い時期は、まだ想いを形に出来ずに焦っている時だ。誰かに先を越されないだろうかなんて思ったり。そういう時期は、とにかくいい仕事を重ねるしかないんだよな、きっと。
技術要素が複雑で、市場規模も世界的であればまた話は違うのだろうが、少なくともいまつくろうとしているものは、そういうものじゃあない。たとえばブルーノ・ムナーリが、彼がつくった数々の絵本の素晴らしいアイデアについて、いちいちそんなこと考えていただろうか。

01/09/06
ついに製造開始。多摩美から、生え抜きの四人の学生が集まる。デザインが決まっていない部分もあるが、まずは先行して中身の回路部分を組み立てなければ….。パーツのつくり方など、指示を与える福田さん。

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01/09/07,08
製作開始二日目。試作段階ではうまく行っているのに、いざ作り始めてチェックしたら、灯りが点かない!という問題が発生。設計通り組み立てているのに。(光センサーの高感度性と、電池電圧が問題でした)

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三日目。多摩美から研究室助手の岡村さんと、もと強電技術者・現学生の山上さん来る。彼らの助けにより、のべ250個のハンダ付け作業・第一段階が終了! 本来、工場に出すべき仕事だよなあと、自分もやってみてしみじみ痛感。
ハンダの加熱にトランジスタ等のパーツが耐えられるのは約2秒程度と、下村さんが電話で忠告。

01/09/09
回路部分の製作は進んでいるが、実は頭部のロウの形状がまだ決まらずにいる。計量カップをはじめ、ケーキ型も試してくる福田さん。 マドレーヌ型の星形の陰影がとてもグー。表面もキレイに仕上がり、このイメージから離れられなくなる。

しかしマドレーヌ型は、径が大きいと浅くなる傾向があって、回路部分が十分に収まる型がどの店頭にも見あたらない。

あるケーキ型メーカーに相談を持ちかける藤本。「日本で初めてケーキ型をつくりはじめたのはウチ!」と意気高い社長と電話で話す。電話口でカタログに全部目を通してくれるが、ちょうどいいサイズの型はここにもない。「なにをつくるんですか?」「照明器具…」とのやり取りに戸惑いもせず、「ウチは何でもつくります!」と前向きな返答。オーダー数がもっと多ければ、金型をおこすところからお願いしたいのだけど…。しかしこういう人たちが、日本を支えている無数の支柱なんだと思う。藤本、アメリカにいる母親にも、クラフトショップでケーキ型の調査を依頼。

紆余曲折を経て、プリン型の採用が決まる。点灯すると、本当にプリンみたい、っていうか本当にプリンなんだけど。

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上のキャラメル部分は内蔵されている基盤の影

頭が決まったので、いよいよ受風部のデザインを決めなければ。

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何度も登場するこの手前の人物は福田さん(西村ではない)

オフィスにヒモを張り、その場でスケッチ&工作。藤本がなに気なくいい形を出す。素晴らしい。大きさのバリエーションをつくって、屋上の物干しに吊して受風テスト。いよいよ全体のプロポーションが決まる。
早速、受風部の型抜き加工を入稿。月食カードでもお世話になっている目黒川沿いの印刷会社、プレストーンさんへ。用紙は竹尾さんイチオシ?の光触媒紙、「ディドール」を含み、野外展示用の3種類。いつもリビングワールドを担当してださっている高瀬さんは、いつ電話をしても、何だかこちらが元気が出るような声をかけてくださる。納期はギリギリだけれども、なんとか設営前日には間に合うとのこと。いつもほんとうに、ありがとうございます!

01/09/15
アルミプレートの加工を請けてくれたアサミ製作所さんは、夫婦二人できりもりする、荒川区の小さな工作所だ。 やり手と評判の奥さんから「あんたたち、一度遊びに来なさい」と呼びつけられ、素直に三ノ輪へ向かう福田・藤本・西村の三名。
「つくりたいものがあったら、うちの工房に来てつくればいい。道具はすぐにおぼえるでしょ。遠慮せずに来なさい」と嬉しい言葉をいただく(が、気軽に行くにはちょっと距離があるなあ….)。東の空にまたたく明けの明星の話や、身体が鉄を通り抜けられないというご主人の悩み事など、楽しい不思議トークが炸裂するが、ここでは略。南千住・尾花で鰻をいただいて帰る。

01/09/23
西村はサウンドバムの仕事で極東ロシアへ。東京では、福田さんと藤本を中心に、再び多摩美の優れ者に集まってもらい、手作業が重ねられる。

この2.3週間は、製作作業のピーク。領収書の束をめくると、東急ハンズの名前が目立つ。卸価格の数倍の「ハンズ価格」。お金で「時間」を買っているわけだ。そんなふうにつくりたいわけじゃない。そしてゴミ。モノをつくっていると、副産物としてのゴミが出る出る。いくら分別しても、出るものは出る。
急いでいるうちは、どうにもならないかも。スマートにやりたいなら、「ゆっくりやる」に限るように思う。しかしゆっくりだと、今度はテンションの持続が難しい。
LWのように、オフィスを共有しないゲストメンバーとのモノづくりでは、プロジェクトの求心力の維持は、大きなテーマだ。

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この頃から、ロウの流し込み作業始まる。西村・福田両家から持ち込まれた卓上コンロでパラフィンを溶かし、回路を入れたカップに注いで、一晩放置。透明だったロウは、目に見える速度で固まっていく。
この頃、隣のASYL designに打合せに来ていたComposit誌の女性編集者さんが、「今度食べる時はぜひ声をかけてください!」(プリンが好きらしい)と、素敵な発言を残していったとか。

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最初は無色透明だが、10分もしないうちに固まりはじめる

風灯のDMと平行して、竹尾・青山見本帖のDMカードもデザインを頼まれていた藤本。青山見本帖でご一緒するデザイナーの織咲誠さんと電話で話しこむ機会あり、モノづくりのあれやこれやをめぐり、元気づけられる。

01/09/28
事務所屋上の物干し台に番線を張って、数十灯での点灯テスト。この数で見るのははじめて。風がどんな具合に見えるか確認した上で、IDEEでの展示デザインを考えようというわけ。….なのだけど、思いの外、屋上が寒くて頭が働かない。

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直線上に並ぶと村祭りみたいなんだよね…

福田さんは竹尾展示用の別バージョンを試作。
カフェのテーブルキャンドルの光源を隠す、POPを兼ねたシェードや、会場で注文していただくための申込み用紙など、風灯以外につくらなければいけないものが沢山ある。もくもくとつくる。

01/10/04
ポストカード発送。篠原さん(greart3、Charaの元マネージャー氏)が、風灯展示前後の仕事を手伝いはじめてくれる。さすが、気のきくところがちがいます。感謝。

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Caffe@IDEEの設営作業を始める。営業が終わる11:30pmからの約二時間と、翌朝、店が開く前の約二時間が作業可能な時間帯。二日前の夜は天井に番線を張り、前日夜に風灯を吊す。

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店内の吊り込みを終えてから、今度は街路樹に。防水対策は万全ではないし、盗まれるかもしれないけど、樹に吊してあったらどんな風に見えるだろうと誰もが思う。酔狂な話だけど、やはり見てみたい。自分たちがそれを見てみたい、体験してみたいからつくっているのだから、多少無理があってもやるでしょう。
不思議な光かたをする光源に興味を持って、立ち止まる通行者多し。男女四名のグループが、興味津々といった面もち。風灯の仕組みを簡単に説明したところ、目が輝く。竹芝にある科学技術館の若いスタッフの方々だった。

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01/10/06
ついにカフェでの展覧会初日。夕方、事務所で仕事を片づけながら「そろそろ灯り始めているかな」と、夕暮れの明るさが気になる。なによりも、風が吹いているかどうか。
センスウェアをつくると、その製作をつうじて、普段より風や夕暮れや天候に敏感になっている自分に気づくのが楽しい。自分の外側に別の感覚器が生じて、そこと繋がっているような感覚。

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カフェの大島さんが、店内にあるハバナルームという個室を提供してくれた。購入予約者、トップバッターは高橋恵子さん。(E-Mailでは鈴木秀樹さん)。高橋さんから、溶岩に植えられた素敵な菊の鉢植えをお祝いにいただいた。
初日に観に来てくれた、友人・知人とゆったり和む。福田さんは奥さんと一緒に、ご両親を招いてテラスで食事。

01/10/07
Caffe@IDEEへ行くと、「本日18:00からパーティーのため貸し切り」とのこと。初耳でたじろぐが、気を取り直して一階の角にあるSPUTNICKのデリスタンドを借り、街路樹の風灯の下でお茶のサービスをすることにする。

暗くなり、スタンドにも白熱灯の明かりが入ると、とてもいい雰囲気。散歩がてら、いろんな人が遊びに来る。風もそこそこで、灯り具合も気持ちいい。福田さんの奥さんことイチコさんがスタンドに入り、主にお茶をふるまってくれた。美味しいし、店のチイママぶりが様になっていて素敵。
東京デザイナーズブロックのボランティアでIDEEに来ている学生さん達が、とても気に入ってくれた様子。休み時間の合間に、他のスタッフを連れて、何度も眺めに来てくれる。

この後の約一週間は、はじめて会う人も含み、本当にいろんな人が観て・驚いて・和んで・喜んでいってくれた。営業中のカフェを展覧会場として借りることで、カフェ側にかけてしまった負担も多々あったと思うが(感謝)、それでも成功だったと思う。

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試作版は防水仕様ではなかったので、いくつか壊れてしまった

後日談だが、Caffe@IDEEのスタッフはかなり風灯を気に入ってくれた様子。会期終了後のスタッフミーティングで、「はずさない方が良かったのに」という声も出たとか。たまたまカフェに来ていた人たちが、夕方になって光りはじめた風灯を見上げながら、「なんだろう」「風が吹くと光っているんじゃないの?」「電気は風でできているのかな」と話し合ったり、「かわいい!」と指さしている情景は、作り手の僕らさることながら、Caffe@IDEEのスタッフにも嬉しいことだったろう。仕組みについて難しい質問をうけて、困ることもあったかもしれないけど。

個人的に、自転車で通りかかった男性のことが忘れられない。役者をやっているという彼は、昼間通りすがりに点灯前の白い風灯を見上げて興味を持ち、仕事の帰りがけにもう一度見に来てくれた。言葉少なに熱く「なんかこう、胸のあたりがまるまるっと、丸くなった!」と感想を伝えてくれる。素敵なのは、あなたの方ですよ。

01/10/08
街路側に吊してあった19灯のうち、3灯を誰かが持っていってしまう。誰でも採りやすい場所に、それこそ柿のように吊してあったので仕方ない。けど、やはりへこむ。盗んで持っていってしまうような人は、たぶんあまり大事にしてくれないだろう。それが、なによりも辛い。

01/10/10
土砂降りの中、東京デザイナーズブロック(tdB)・2001が始まる。昨年より始まったデザインイベントで、メーカーやブランドでなく、デザイナーが主役。この五日間は、青山を中心とした一帯が、同時進行の展示プログラムが林立する学園祭状態になり、海外のデザイン関係者も数多くやってくる。
tdBの一環として、竹尾・青山見本帖での風灯のサブ展示も始まる。明るい店内であまりいいプレゼンテーションとは言えないけれど、見本帖スタッフは夕方になると一灯外の街路に吊してくれたり、昼間でも出来るだけ暗くして風灯を紹介してくれたり、丁寧にケアしてくれた様子で多謝。

青山見本帖を出て、織咲さんとLWの二人でIDEEで食事。気に入ってくれた様子。「かたちのバランスもすごくまとまってるけどそれだけじゃなくて、明滅の動きがデザインの中心になっているところがいいよね。この映像は一生残るなあ….」と、彼。

01/10/12
東京に来ているefishの西堀晋さん、ロンドンの安積夫妻、そして吉岡徳仁さんらと、深夜のインスタントカフェでお茶を飲む西村・藤本。
安積さんから、自分たちの活動の広報業務やマネージメントについて、「いろんな会社から『うちに任せろ』というオファーがあるが、いちばん大事な部分なので滅多なことがない限り人に任せることはできない。貸出用ポジの管理やブローシャーの発送まで、全部自分たちでやっている」といった話を聞き、確かにそうだよなあと共感する。

01/10/14
東京での展示最終日、tdBも最終日。カフェが極端に混み合うことが予想されたので、再びSPUTNICKのデリスタンドを借りてお茶をふるまう。藤本の煎れるお茶(この日は黒炒り玄米茶)は本当に美味しい。人々もハッピー。
Caffe@IDEEで開かれたスウェーデン大使館主催のパーティーで、カフェからもう一灯、誰かが持ち帰ってしまった。(哀)

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この日、暮れてしばらくの間はあまり風がなく、ちょっと寂しい。そういうものなんだから仕方ないのだけど。でも、9時をまわった頃から、ふたたび風が吹きはじめた。一日の中でも、風は大きく呼吸をくり返している。東京湾の海風と陸風が入れ替わる時間も、おそらくこの頃だ。

この日もいろんな人が駆け込みで観にきてくれる。11:30pmを回って、いよいよ展示終了。篠原さんも撤去支援で登場。三人で取り外すが、一時間もかからずに作業は完了。設営の苦労にくらべ、呆気ないことしきり。
ありがとうございました>Caffe@IDEE
この間の予約灯数は、E-Mail含み約120灯。

01/10/16~18
京都展示に向けたメンテナンス作業。efishに置かれたDMは、すべてはけてしまい、今はコピーで増刷したものを置いているとの連絡有り。かたじけない。

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風灯約180灯を段ボール箱に抱えて京都へ。門脇夫妻が駅までクルマで来てくれる。その足でefishへ。早速作業を始めなければいけないのだけど、まだ展示イメージが固まっていない。
二階でケーキ&ミルクティーでくつろぐ。美味いー。:-D

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その後、西堀さんと一階で打合せ、efishでの展示プランをまとめ、番線の設営から作業を始める。以前考えていたアイデアに近い。

01/10/20

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カフェなので翌朝までに終える必要あり/右は助けに来てくれた門脇さん

鴨川越しに差し込んでくる強い朝陽に照らされながら、朝の9時、ようやく全体の吊り込みが終わる。あとは、風が吹き込んでくれるのを待つのみ!
昼間の明るいうちは、特にやることのない西村と藤本。普段東京で買い物をする時間がないため、京都まで来てなぜかデパートの売り場を歩いたりしている。うーん….。

夕方になると、今頃カフェはどうなっているか、少し怖くて、行きたくもあり行きたくなくもあり。西堀さんに電話をかけてみると、窓を全開にしていると寒いようで、お客さんの苦情が多く、苦戦しているとのこと。彼らは、鴨川側と高瀬川側の窓を開けるために、自宅からハイカロリーのストーブを持ってきてくれていたのだが、それでも寒いもんは寒いと。
営業の終わった10時過ぎ、ようやく全開に。たまたま残っていた人は、全開状態で灯る風灯を体験する。(上の写真は西堀さんとつかささん)

01/10/27
再び京都へ。その後、評判はいい様子。雨の日以外は、窓も全開にしてくださっているとか。

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efishは五条楽園という古い遊郭街の入り口にある。風情のある一角で、高瀬川沿いの緑がとても気持ちよい。ふらりと立ち寄った隣のおばあちゃん(おフクさん)が、風灯を眺めながらコーヒーを飲んでいた。客層のダイナミックレンジ、かなり広いねこの店。

efishの奥の方に、外国人旅行客専門の宿があるようで、夜両方の開口が全開になっていると、海外の方々が通りがかりに覗き込んでいく。 風灯は、西洋の人たちにはどう受け取られているんだろう。フラッシュはたかない方がいいと思うんだけどなあ。それは、日本の人でも同じか。

店長のつかささんが、風灯を気に入って、efishに三日間通いつめたという二人連れの西洋人を紹介してくださる。ぜひ欲しいとのことだが、つたない英語でお断りした。約20日間の展示を通じ、風灯にはいくつかの課題が確認されている。日本国内なら、発送後もなんらかのケアが出来そうだけど、海外となると難しい。そこには嫁に出せないわ、という感じ。
二階の屋外に吊してあった風灯の大半が、点灯しなくなってしまったと西堀さんから事前に連絡をいただいていたので、早速チェック。防滴のシール材を抜けて、水が電池スペースに。テスターで測ると、短絡したのだろう、電圧が消えていた。

01/10/28
京都の展示も終了。カードへの書き込みやコメント量が多い。Caffe@IDEEも良くしていただいたが、efishはさらにスタッフがファミリアで、本当に気持ち良かった。感謝。そしてなんと言っても、鴨川に感謝、というかLOVE! あの川が流れているだけで、京都に住んでもいいかなと思えてしまう。

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efishと西堀晋・つかさ夫妻の話を書き始めると、長くなるので略。現在のefishは、京都の財産だと思う。西村・藤本は、遠い街に常連の店が出来たようで、とても嬉しい。近所に美味しい肉の長崎屋のコロッケもある(滞在中はほぼ毎日いただいた)。

IDEEの野村さんと川渕さんが、公休で京都へ。撤去寸前の風灯を見にきてくれる。
風の形は、前よりだいぶ見えてきた。 さて、ここまでの予約灯総数は、E-Mail含み約200灯。

by LW 2002/1/28

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