働かないひと

23日に益子の馬場浩史さんを訪ねた。
スターネットで、つのだたかし(リュート奏者)と波多野睦美(歌)のコンサートがあったのと、来年2月出版の「自分の仕事をつくる」の文庫本の打合せで。
つのださん達のコンサートは、PAをいっさい使わないアコースティックなもので、歌声と弦の響きがギャラリー空間を満たし、今年行ったコンサートの中でも最良のものの一つだった。
つのださんは、毎年12月のイブ頃はスターネットのZONE(ギャラリーの名前)で演奏することを一年の楽しみのひとつにしているそうだ。次の機会は一年後だが、もし興味があったらぜひ行ってほしいと思える、お薦めの時間だった。

シブヤ大学の左京泰明さんが、本を書いた。
働かないひと。」(弘文堂)

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装丁は寄藤文平さん

ブックディレクターの幅さんや、ASOBOTの伊藤さんなど10人のもとを、左京さんと編集の加藤聖子さんが「働くってなんだ?」という問いを小脇に訪ねてまわった、インタビュー本。
仕事の学校でご一緒している本城さんや、太陽系のそとでお世話になっている国立天文台/4D2U・小久保さんも登場。面識はないが以前から勝手に感心させていただいている、バングラディッシュでジュート(麻)バックの生産事業に関わっている山口絵里子さんの話も載っていて、僕はとても楽しめた。
各インタビューのボリューム感も十分にあって良い。

本は、それを読むことで「自分に出会う」時間を持てることが、なによりの効用だと思う。
中に書かれていることをコピーするのではなく、書かれていた一言、語られたワンフレーズを手がかりに、自分の中にあったいくつかの断片がパシッ!と集まり、あたらしい一つの固まりになる。曖昧だったものがハッキリする。
本を読むことは、そこに書かれていることに反応する自分に触れる、触れ直すことだ。
この本には僕(西村佳哲)も登場している。自分の語りを読み直すことで、あらためて自分に触れる思いがあった。
二冊目の試行錯誤をはじめてもう四年以上経つ。でもこの本「働かないひと。」が出たことで、自分の本で書くべきことが鮮明になった。
実は最初に1.5時間ほど取材を受けて、でもちゃんと録音できていなかったことが判明し、またあらためて2時間ほどお話しした。左京さん、加藤さん、あの時は大変でしたね。
でもその甲斐あったと思うし、古い友人の中ザワヒデキさんが昔聞かせてくれた話をご紹介できたのも、僕には嬉しいことだったな。

まわりの友人たちからは「売れないんじゃないかー!>この本」という、惜しむ声が届いている。自分が書いた本ではないとはいえ、やはりそういう声を聞くとドキドキする。
Oさんが送ってくれた指摘がいちばん明確で、「働かないひと=ニート。書店にいったら、若者論の棚にあったが、届けたい先はそこではないだろう」とのこと。
いや、おっしゃる通りだと思う。
左京さんは取材を重ねてゆく中で、「この人たちには世間一般でいうところの〈働いている〉感はないんだ!」という気づきがあったようだ。働いている、というより、自分をまっとうしているとか、できることをやっているとか、そんな感じだろうか。
その気づきの嬉しさが「働かないひと」というタイトルになっている。そこは理解できる。最初にタイトル案を聞かせてもらった時は、なるほどねーと、他意のない相槌をうった。が、言われてみれば確かにニート論に誤解されやすそうだし、白黒のミニマムなデザインと相まってローエネルギーな印象もいなめなくない。
しかし内容はハイエネルギーな良い一冊なので、ぜひ多くの人に手にとってみて欲しいと思っている。

by LW 2008/12/28

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