「四国らしさ」ってなんだろう?ノート

リビングワールドの西村佳哲はイン神山(2008)の製作後、そのきっかけとなった四国経産局の方々と、四国について考え、可能性を探る仕事をつづけています。
話し合いや現場探訪をかさね、報告書にまとめられてゆく作業が中心でしたから、サイトでの紹介はひかえていましたが、どなたにも手にしていただける成果が一つ出来たので報告します。

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一冊の、ノート調の読み物です。「四国らしさって何だろう?ノート」。
四国は4県で構成された、一つの大きな島です。
そこで暮らす人たちと話していると、たとえば「香川の人はこう、徳島はこう」といった、「県ごとに人間がまるで違うんよ!」という話が多い。
中央構造線で、瀬戸内側と太平洋側の二つに大きく分断されていて、気象も風土もまるで違う。
さらに徳島の人たちは関西へ、香川は岡山、愛媛は広島や大分、高知はどかんと大洋の向こうでしょうか。意識も、てんでバラバラの方向を向いていたりする。
仲が悪いわけではなさそうだし、「違う!」話の時もたいていみなさん楽しそうなので、それはそれでなんだか幸せそうなのですが(私見です)、でも外から見るとやはり「四国」という一つの島です。
これまで日本の各地方は、東京で集めた税金を分け合って、たくさんの公共工事をして、そして「東京のような暮らし」の整備をはかってきました。
「こうじゃないよな…」と思っている人は、たぶん沢山いる。でも、じゃあどっちへ行けばいいの?と考えるとよくわからなかったり。
なにを大事にしてどう生きてゆくかは、自分や家族の話ならまだしも、地域の話にもなると手に余る。ましてや「四国」という単位でそれを考えるのはちょっと無理!…なんでしょうか?

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四国がどっちへ向かうといいのか、は誰にもわからない。
でも、なるようにはなってゆくわけですから、なら少なくとも4県バラバラで歩んでゆくより、互いに話を交わしたり、視点を交換したり、時には「四国らしさってなんだろう?」と考え合うような機会があれば、より良い形でどこかに向かえる可能性も高くなるんじゃないか。
将来的な方向性を指し示す提言書のようなものをつくるより、一緒に考えたり、交わり合える時間とその質の方が大事なんじゃないかな…、といったやり取りから生まれた成果の一つです。

世界各地から「ある文化圏の中で、独自の文化や暮らしを持っていると思われる地域ないし国」を6カ所選んでみました。
たとえば、イタリアのシチリア島(実際サイズ感も四国に近かったりする)や、アメリカのオレゴン州、中南米のコスタリカなど。

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そしてそこで生まれ育った人たちに、家族や仕事について、あるいは、どんなつながりや場所を大切にしているかといったことを、一個人(でも気分は各地域の代表)として語ってもらい、まとめています。
たとえば「家族ってどんなもの?」というページだと…

18歳になったら独立して、両親と離れて住む。独立しないのはオレゴンでは恥。電車がないから、16歳になるとだいたい車を買ってもらえる。(オレゴン)
なによりも家族が中心。クリスマスや新年などの祝日は家族で集まります。(コスタリカ)
大事なもの。奥さんは仕事をやめて、家のことをきっちりやるのが普通。パパは親戚が集まれるように、30人用のテーブルを作っていたよ。(シチリア)
子どもは結婚するまで家を出ないのが普通。ひとり暮しをする習慣はありません。(シチリア)
一番大事。間違いないでしょ。クリスマスは家族と過ごさなくちゃ!(スコットランド)
僕はいま台北でひとり暮らしだけど、週末は家に帰って、家族とのんびり過ごします。(台湾)
結婚は「家」と「家」。名を汚せないから離婚もできない。外に出た私にはしがらみに思えますが、中の人は無理しているわけではないと思います。(北東北地方)

以上部分抜粋ですが、読んでゆくと、つい自分やその家族のことを考えてしまう。
「仕事は生活の一部でしかありません。家族が生活できる余裕があれば、それ以上稼がなくてもOK。私も忙しいとは言っても17:30には仕事を終えます。(コスタリカの女性)」 …そうですか。
自分たちを照らす世界各地の小さな灯りが、集まって並んでいる。そんな感じです。

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巻末には、四国4県の人々の座談も収録。

制作期間は正味一ヶ月という短さでした。にもかかわらずこの冊子が出来た背景には、ビオピオのメンバーの力が大きい。greenz.jpというニュースサイトを運営するチームで、彼らが一人でも欠けていたらこの企画は形にならなかったと思います。デザインは根本真路さん。
冊子は申し込めば無料で送ってもらえて、四国経産局のページでPDFも入手可能です。
>四国経済産業局|プレスリリース

クライアント: 経済産業省四国経済産業局
プロデュース: 日本デザインセンター(紫牟田伸子、野村充史)
ディレクション: 西村佳哲(リビングワールド)
Coディレクション: トム・ヴィンセント(トノループネットワークス
編集・CD: ビオピオ(兼松佳宏、坪根育美、鈴木菜央)
デザイン: 根本真路
リサーチ: 萱原正嗣
写真: SaikoCamera(伊藤菜衣子)
Special thanks to: Home Island Project

by LW 2010/4/28

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